3-1八ヶ岳の魅力

少し歴史的に振り返ってみましょう。

皆さん驚かれるかも知れませんが、日本国内で一番人口が多かったのが八ヶ岳です。今から4000年から5000年前の縄文中期の頃で、特に八ヶ岳の南麓高原で多くの遺跡が発見されています。

現在の地名でいうと、八ヶ岳の南西側に長野県の原村や富士見町、南に山梨県北杜市、南東側に野辺山や小海町辺りを私たちは総称して八ヶ岳南麓高原と呼んでいます。日当たりが良く、良質な湧き水が沢山あり、特に広葉樹の森にはクルミ・ナラ・トチなどのナッツ類の食料が豊かだったので住環境としてはとても優れていたようです。

ところが、縄文時代晩期に入ると突如として八ヶ岳から人々が消えてしまいます。おそらくは気温の低下に伴い、人が住むには冬の寒さが厳しくなり過ぎたのでしょう。

長らく忘れ去られていた八ヶ岳ですが、1970年代後半に『高原にいらっしゃい』というドラマがヒットし、更にアンアン・ノンノの雑誌に取り上げられたのをきっかけに清里ブームが起こりました。しかし短期間でそのブームが去った後は、夏を中心に別荘を利用する方たちが、かろうじて八ヶ岳南麓の賑わいを支えていました。

夏を中心に利用する別荘オーナー達でしたが、いったん住んでみると、晴天率が高く日照時間は日本で一番長いことを実際に体感して『冬もいけるじゃない!』となり、あるいは断熱性能の高い家を作れば『冬こそ静かでいいじゃない!』と感じるリタイア組も増えた結果、別荘の通年利用や更には住民票を移して永住する方が増加し続けています。

加えて、子育て世代の方々の移住も増えており、『一年を通じて自然の恩恵を毎日感じながら暮らす場』として八ヶ岳南麓の評価が高まりました。

この動きに拍車をかけたのが、コロナ感染症を避けるためのリモートワークの定着化や、災害時に『自活できる第二の拠点』を作る動きでした。特に二番目の『八ヶ岳なら、都会的なインフラに頼らないで生き延びることが出来る豊かな自然環境が残っている』という点が急速に評価されているようです。

『生き延びることが出来る自然』とは何でしょうか?この点を整理して具体的にお伝えすると次のようになると思います。

  • 1. 飲料として最適良質な水源・湧水が沢山ある。
  • 2. 日照時間が日本で一番長いので、冬場の日射取得エネルギーが大量に得られる。
  • 3. 更に太陽光発電などにより、積極的に自前電力も確保することが容易である。
  • 4. 新たなコメどころとなった北杜市やレタスなどの高原野菜の首都圏への主要供給源である野辺山など、農産物が豊富で家庭菜園を含めて食料自給が可能である。
  • 5. 都心から電車や車で2時間程度の距離にあり「いざとなったら避難」が可能である。
  • 6. 針葉樹・広葉樹の混交林が豊富にあり、暖房や調理熱源としての薪が潤沢にある。
  • 7. 衛星通信の電波を遮るものもなく通信システムに対して有利な環境にある。
  • 8. 最近の異常なほど暑い夏でも八ヶ岳では夜はエアコンなしで20度台の室温を保てる。

私はこれに加えて、中部横断自動車道により静岡市内から1時間半足らずで野辺山まで行き来出来るようになったことから、八ヶ岳と海がとても近くなったことが、これから大いに評価されると思っています。

別荘地としての八ヶ岳の魅力

八ヶ岳南麓には大型の別荘分譲地がいくつか存在します。いずれも八ヶ岳の景観を主役に美しく整備され、管理も行き届いています。中でも、南東麓の野辺山を中心に開発された「八ヶ岳高原 海の口自然郷」は最近急速に人気が高まっています。

こちらの別荘地は標高1400mから1800mにわたって250万坪の広さがあり、一つの区画が大きく区分けされています。又、将来的な分譲計画も明確です。

分譲地ではなく、個別の土地にそれぞれの家を建てるのも素敵なことですが、周辺が将来どのようになるのかは不安要素です。せっかく豊かな自然の中に家を建てたのに、すぐ隣に家が建ち、気がつけば市街地のそれと変わらないような景観になってしまっては残念です。

大規模な分譲地では建物の色や形状など様々な制約があり、穏やかな気持ちで別荘生活を楽しむことが出来ます。加えて、日本を代表する建築家の吉村順三氏が設計した木造の音楽ホール「八ヶ岳音楽堂」では著名な音楽家のコンサートが多く企画されています。旧西武系のサービスの行き届いたホテルや管理体制など都市生活者が安心して身をゆだねられる環境が整備されています。

「人にやさしい自然」を有していた八ヶ岳に、寒さという天敵が現れましたが、今となっては夏にはエアコン不要の暮らしとして評価され、問題の冬は降雪回数も量も少ない上に高気密高断熱の住宅性能技術の進化によって、極めて欠点の少ない八ヶ岳に変貌しています。

数千年の時を経て我々が『人が還る自然』として掲げるのは大げさでしょうか?

3-2豊かな暮らしを求めて

人によって、「豊かさ」の捉え方は様々です。物質的・金銭的な豊かさはもちろん、学問や芸術、社会的なステータス、家族や恋人との関係など、豊かさや幸福のために関係しそうな物事は、数え上げるとキリがありません。

「八ヶ岳に家を建てたい」と考えていらっしゃるお客様へ我々が最初に質問させて頂くのは「どのような家を建てたいですか?」ではありません。間取りでも、形状でも、色でもありません。最初の質問は「八ヶ岳でどのように過ごしているところをイメージしますか?」です。そして『それは何故八ヶ岳なのですか?』と続きます。

お客様の答えも「将来の値上がり」などの投資的なコメントは皆無です。

お客様がイメージされている映像のようなものは、「薪ストーブの前で炎を見ながらお酒を飲んでいる」とか、「愛犬と敷地内で遊んでいる」とか、「屋根付きのデッキでぼーっと夕陽を眺めている」とかそれぞれ異なります。しかし、本質的にはその方たちの豊かな暮らし=豊かな時の過ごし方をイメージされているように思います。

ここは、我々八ヶ岳で暮らすものと共通した価値観であるように思います。

『日々刻々、四季折々に変化する自然と接し、感謝に満ちた穏やかな時間を過ごす』

近年、欧米ではマインドフルネスという言葉やセミナーが高い評価を得ているようですが、世界的にも豊かな心を養うことこそ人生の大切な目的になってきているかと思います。

3-3人の還る自然

建築基準法の根本目的は「人の生命と財産を守る」です。

そこには「美しい」とか「暖かい」とか「涼しい」家といったゴールは掲げられていません。

確かに自然界はウットリするような美しさと同時に一瞬にして生命や財産を奪い去る恐ろしい力を持っています。しかし、私たちの家づくりは八ヶ岳の自然に最大の敬意を払いつつ、常に畏怖の念と親しみを持って構造的には「頑丈」で、機能的には「冬暖かく」「夏涼しく」、「美しい」家と庭作りを目指しています。そしてオーナーの方が我が家・我が庭を愛情をもって手入れすることで、元あった自然以上に調和のとれた新たな自然を作っていくことを願っています。人が根源的に持っている「他への慈しみ」が自然と接することで育ち、自然を育て守る主体的な存在へと成長していく。そのように循環する関係性を私たちは「人の還る自然」と考えています。